InDesign(インデザイン)のソフトの互換性・リビジョンの違い
ソフトの互換性
DTPは、印刷用のデータを作ることが最終的な目的の技術です。そして、信頼性の高い安全な印刷用データを作るためには、機能だけでなく安定して安全なデータを作れるソフトを使うことが大切になります。これまで数多くのソフトがDTP向けに作られてきましたが、DTP業界全体で信頼を勝ち得たものはわずかしかないのはそのためでしょう。
InDesignが普及するまで、DTPのレイアウトソフトでもっとも信頼されていたのはQuarkXPressでした。QuarkXPressは、先行ソフトであるPageMakerを押しのけ、長い間DTPのデファクトスタンダード的な地位にありましたが、QuarkXPressが信頼された最大の理由は安定性にあったのではないでしょうか。
もちろん、ソフトには不具合や問題が付き物です。QuarkXPressにも問題はありましたが、他のソフトに比べると出力などでの重大なトラブルは少なかったのも事実です。QuarkXPressはバージョンアップの間隔が長く、新しい環境への対応が遅れがちでしたが、その点もDTPではむしろ安定性の評価に寄与したと言えます。
さて、DTPユーザーに絶大な支持を得ていたQuarkXPressは、21世紀に入ってから登場したInDesignの猛追を受け、数年後には売り上げ的にも完全に逆転されます。その原因はMac OS Xへの対応の遅れなどさまざまですが、多様化するユーザーのニーズをすくい上げることを怠ってきたツケが回ってきたということは否めないのではないでしょうか。何と言っても、InDesignと比べると機能的な立ち遅れは歴然でした。
いくら安定性が重要視されるDTPとはいえ、OSやマシン、フォント環境、他のソフトなどが日進月歩で進化し、新しいニーズへの対応が求められる時代に、数年に一度のアップグレードで済ませようというのはさすがに無理があると言えるでしょう。DTPだって進歩は必要なのです。
一方QuarkXPressを抜き去ったInDesignですが、こちらは1年半ごとにバージョンアップしていくという基本方針でした。2001年に登場した日本語版でも、これまで数多くのメジャーアップグレードが行われ、そのたびに多くの機能が追加され、強化されています。
バージョンアップでは新機能だけでなく不具合や問題点の修正も重要な目的になります。中でも、テキストの組版エンジンは、InDesignの売りの一つでもあり、これまでバージョンアップのたびに修正が施されてきました。
このこと自体は、悪いことではありません。十年以上も前に作られた(しかも今から考えればかなり貧弱な)組版エンジンをほとんどそのまま使い続けたQuarkXPressに比べれば良心的とも言えるでしょう。ただし、それによってバージョン間の互換性が確保できないという問題も生じています。
たとえば、InDesign CSで作ったデータをCS2で開く、あるいは、CS2のデータをCS3で開いた場合、文字組みのそのままの形での再現は保証されていません。つまり文字組みが変わってしまう可能性があるのです。しかも、前方互換、つまり上位バージョンで作ったデータを下位バージョンで開く仕組みも、初期のバージョン間では用意されていませんでした。
CS2になってようやく、INXというXMLベースの中間ファイルを介することでCSでもデータを開くことが可能になりました。CS4からはIDMLというフォーマットになり、CS4以降のバージョン間はこのフォーマット経由で行われます。
なお、IDMLによって前方互換性がようやく確保されたとはいえ、文字組みに関しては保証外です(もちろん後方互換でも同じ)。このことは、バージョンの異なるInDesignで共同作業を行うことの困難さを端的に表しています。
リビジョンの違い
InDesignには、1.0、2.0、CS、CS2といったバージョン間だけでなく同じバージョン内でもリビジョンの違いによる互換性の問題も存在します。アドビからは、不具合などを解消するアップデータが適時配信されています。このアップデータをインストールすることで不具合が解消するのはいいのですが、それによってそれまで作ったデータを開いた際に文字組みが変わってしまう可能性があるのです。
アップデートしたかどうかで文字組みが変わってしまうということは、共同作業を行う場合はアップデートに関しても同期を取らなければならないということになるわけです。
Windows版はCtrlキーを押しながらメニューの「ヘルプ→InDesignについて」をクリック、Macintosh版はCommandキーを押しながら「InDesign→InDesignについて」をクリックするとコンポーネント情報が現われます。ここで現在のリビジョンおよびデータを作成・修正したリビジョンが確認できます(たとえばCSの場合440、460、814、838という4つのリビジョンが存在する)。InDesignデータをやり取りする際はこのチェックが大切です。
リビジョンは共同作業において問題になるだけではありません。既存のデータを流用する場合、データを作った後でアップデートが行われればリビジョンが違ってきます。辞書など複数のマシンで長期間データを作るような仕事だと、その仕事が完全に終わるまでアップデートができないことにもなってしまいます。アップデートの目的には不具合の解消もあることを考えると、これではあまりにも不便でしょう。
InDesignのバージョン違いによる文字組みの崩れについては、リビジョンを揃える以外に解決策はないのですが、リビジョンの統一・固定化はデメリットや負担も大きいため、ソフト管理者としては悩ましいところです。各リビジョンのマシンを用意しておくということも余裕があれば可能ですが、今度はいつまでそのリビジョンを取っておけばいいのかという疑問も生じます。マシンやOSがどんどんグレードアップしていく中で、リビジョンを固定するのはやはり無理があるのです。
現実的な対応としては、特に問題になりやすいリビジョン間の組み合わせを把握し、何とか回避するということかもしれません。たとえばCSの場合、最初のリビジョンである440と460以降の間で文字組みの違いがよく発生しました。仮に460のInDesignしかない現場に440のデータがきた場合は、データ流用でもきちんと校正するなどの対応を徹底すればリスクは最小限に抑えられるでしょう。
もっとも、組版機能が成熟していくにつれてリビジョンでの文字組み機能の差異も聞かなくなってきたように思われます。既存データの流用はともかく、これからデータを作っていくのであれば、最初からできるだけ新しいリビジョンを使うというのがトラブルを避けるために大切なのかもしれません。
(田村 2006.11.13初出)
(田村 2016.6.3更新)