高精細印刷
高い線数の魅力
オフセット印刷では、網点という小さな点を使って色の濃淡を表します。最近は網点を使わないFMスクリーニングという方式も普及してきましたが、今なお網点を使った方式(AMスクリーニング)のほうが一般的であり、今後しばらくは廃れることもないでしょう。
網点は、肉眼では確認できないほど小さな点ですが、ルーペで見ると分かるように規則正しく均等に並んでいます。1つ1つの網点はそれぞれ大きさが異なっていて、サイズの大きい網点が多く集まっていれば色が濃く、小さい網点が多ければ色が薄くなるというのがこの方式の原理です。
網点で色の濃淡を表現する印刷物では、線数という数値が重要になります。線数とは網点の密度を表す単位で、通常1インチあたりに並ぶ網点(正確には「スクリーンセル」:網点を1つずつ収める仮想的な枠)の数で表します。
線数が高ければ高いほど網点の密度が高く、低ければ密度も低くなります。たとえば、線数100線と200線では、同じ面積中にある網点の数は1:4です。当然ながら、網点がたくさんあるほうが画像はきめ細かく再現されることになります。
たとえば新聞は線数が低い(100線程度)印刷物ですが、肉眼で見えそうなほど網点が大きいため、画像の品質は雑誌などとは比べものになりません。つまり、線数が高いほど印刷された画像の品質も高くなると言えるわけです。
私は700線で印刷された印刷物を持っていますが、これくらいの線数になるとルーペでも網点は確認できません。
また、網点が小さくなることで彩度も向上します。通常だと出せないような高い彩度が出せるようになるのです。
さらに、線数が高ければモアレが軽減されるというメリットもあります。モアレは網点と絵柄のパターン同士が干渉することで発生します。網点を使わないFMスクリーンはパターン同士の干渉そのものが起きないのでモアレも起きませんが、高線数の印刷物は、干渉が起きても眼に見えるレベルでの干渉にならないのです。
モアレは、印刷してみないと起きるかどうか分からないというやっかいな現象ですが、高い線数を使うことで、モアレが心配な印刷物も安心して作業できるわけです。
高線数印刷の問題
このように、線数を上げるだけで写真の印刷品質が上がるのなら、線数をどんどん上げればいいのではないかと思われるかもしれません。しかし、印刷物には適正な線数というものがあり、闇雲に上げればいいというものではないのです。
線数を上げるのを阻む最大の要因は、ドットゲインです。以前解説したように、線数が高くなる(網点のサイズが小さく密度が高くなる)と中間調のドットゲインがどんどん大きくなってきます。
たとえば、50%の濃度がドットゲインによって65%になる印刷物があるとします。線数を高くすることでドットゲインが大きくなり80%になってしまったらどうでしょうか。
ドットゲインが大きくても、それに合わせて色を分解すればいいという考え方もありますが、ドットゲインが大きくなると、印刷条件がちょっと変動しただけで最終的な濃度が大きく振れるなど、かなり印刷しにくくなるのです。
また、線数が高くなると、解像度と階調の兼ね合いも問題になってきます。出力解像度と線数、階調の間には一定の関係があります。すなわち「(出力解像度÷線数)の二乗=階調数-1」という方程式で表される関係です。
この式によると、線数が二倍になった場合、出力解像度が同じであれば階調数は四分の一になってしまいます。つまり、線数が高くなればなるほど再現できる階調は少なくなっていくわけです。
画像の階調は画像品質にも大きな影響を与えます。せっかくきめ細かな再現性を得ても、階調の再現性が劣ってしまうのであれば意味がありません。もちろん、この場合も、線数に合わせて出力解像度を高くすれば得られる階調は変わりませんが、出力解像度を高くすると出力スピードに大きな影響が出ますし、出力機がそんなに高い解像度をサポートしているとは限りません。
高精細印刷の可能性
高い線数で印刷する高精細印刷は、これまで特別なノウハウや技術を持った印刷会社だけが手がける印刷手法でした。しかし、CTPが普及し、印刷機のデジタル制御が進化するに従って、その敷居はかなり低くなってきています。
ドットゲインの問題は、CTPの技術改良や印刷条件の安定化などによってある程度克服できます。また、階調の問題も、複数の網点を一つのセットとみなし(スーパーセル)、少ない解像度でも高い階調を確保できる技術の登場などによって、解決できるようになっています。
たとえば、最新のCTPとデジタル品質管理システムを備えた印刷機を使い、数値による品質管理を徹底して行っている印刷会社であれば、200線~300線といった線数の印刷も今やそれほど困難な仕事ではありません。それ以上の線数だとまだ難しいかもしれませんが、そこまで求められることは少ないでしょう。
通常のカラー印刷物の線数は175線というのが一般的ですが、その1.5倍程度の線数であればさほど特殊な設備や技術がなくても可能になってきたのです。しかも、それによってモアレはほとんどなくなり、画像の精細さも目に見える形で向上します。
最近、FMスクリーニングや多色印刷など、これまでにない印刷技術が脚光を浴びていますが、高精細印刷もそれらの技術に負けないトレンドになる可能性を秘めた印刷手法と言えるでしょう。
(田村 2006.6.19初出)
(田村 2016.11.16更新)