日本語表記の統一
表記の統一
出版物などの文章をよりよくするためには、内容だけでなくどのように書き表すかということも重要になってきます。日本語の文章では、同じ意味でもさまざまな言葉や言い回しがありますが、表現に一定の枠をはめ、文章全体として統一をとることを「表記を統一する」と言います。
たとえば、ミリメートルという単位を日本語で表す際、「ミリメートル」とする場合もあれば、単に「ミリ」あるいは「㍉」としたり、「mm」(半角2文字)や「㎜」(全角1文字)を使うなど、色々な表現があり得ます。
一見、どの表現でもミリメートルという意味には変わりがないようですが、「cm」や「μm」などと共に使うのであれば、「mm」を使うのがいいでしょうし、縦組みで漢数字と共に使う場合はミリメートルのほうがいいかもしれません。
厳密に言うと、同じような意味になるとしても、表記が違うということは多少の違いが生じるものです。ということは、表記が統一されていなければ、異なる言葉が混在することで、意味にもある程度のブレが生じ、それが読み手の理解を混乱させることにもつながるわけです。
表記の統一は、こういった問題を解消し、書いてある内容を読む側がより正確に理解するためにも、たいへん大切な作業なのです。
さまざまな表記
表記を統一するのは基本的に文章の編集段階であり、執筆者ないし編集者が行うのが一般的です。執筆者が行う場合はとりあえずおいとくとして、編集者など文章を書いた本人と違う人間が行う場合は特に注意が必要です。ただ闇雲に統一すればいいとは限らないのです。
たとえば、文中で「マイクロソフト社」と「Microsoft社」が混在しているとします。通常であればどちらかに統一してかまわないケースです。ところが、さらに「MS社」という表記も混在していた場合、筆者としては「マイクロソフト社」や「Microsoft社」が頻繁に出てくると長すぎるので「MS社」という表記を使ったと考えられます。
ただし、はじめから「MS社」だと読者にとって分かりにくいということも考慮するべきでしょう。この場合、初出時に「Microsoft社」ないし「マイクロソフト社」とし、2回目以降は「MS社」で通すやり方も可能です。その際、万全を期すのであれば、初出時に「Microsoft社(以下「MS社」)」という書き方もできるでしょう(ただし場合によってはクドイかもしれません)。
また、同じような意味だとしても、筆者としては微妙なニュアンスの違いを表現したくて別の表記を使っているということもあり得ます。たとえば「お腹」と「腹」が文中で混在しているとします。一見すると、どちらかに統一してもいいように思われるかもしれませんが、実はきちんと理由があって使い分けがされているのかもしれません。
もちろん、単に筆者が不注意で混在させてしまっただけということもあり得ます。表記の統一を図る際には、文章をどれだけ深く読み込むかということも重要な要素になってくるわけです。
一般的に、漢字の新旧やかなに開く・開かない、あるいは送り仮名、仮名遣いなどは、表記が統一されるべきものと言えます。数字の表記(アラビア数字か漢数字かなど)も表記が統一されるべきですが、年号だけは別扱いといったことはあり得ます。
組版段階での表記の統一
表記の統一は、基本的に編集段階で行うと書きました。しかし、最近は原稿がはじめからテキストデータで作られることが多く、編集作業を飛ばして組版作業に入ることもあります。まず文章を組んでから編集の手が入り、表記の統一が図られることが少なくないのです。
そういった場合、DTPソフトの検索・置換機能を駆使して表記を統一することもあります。ただし、ソフトまかせだとどうしても統一すべきでないところまで統一してしまう危険も出てきます。特に一括置換は思わぬトラブルを招く可能性があるので、十分な注意が必要です。
また、組版前の編集作業では表記の統一をしたくてもできないケースもあります。たとえば、文字の入力段階ではコントロールすることが難しいものとして漢字の字形があります。文字コードというものは基本的に字形の細かな違いまで考えずに(というかあえて無視して)作られています。そのため、テキストデータだけではどういう字形を使おうとしているのか分からない場合があるのです。
また、最近ではJIS規格のほうからも字形の変更が問題になっています。JIS X 0213:2004では、規格票の例示字形が変更され、それを元にWindowsに搭載されている標準フォントも字形が変更されています。変更された文字に関しては、OSのバージョンによって字形が違うことになります。
そういったケースで特定の字形に統一するとなると、InDesign(インデザイン)とOpenTypeフォントのように、字形までコントロールできる環境で作業する必要があります。ユニコード対応のソフトというだけでもある程度は可能ですが、十分ではないのです。
ただし、テキストの表記の統一作業そのものは組版側で行うとしても、その指示は編集側でしなければなりません。その場合、どういった指示を出すかという点も問題です。統一したい字形を手書きで示すというのでも、CID番号で字形を指定するというのでもかまいませんが、いずれにしても組版オペレーターに正確に伝わるような指示が求められます。
(田村 2008.5.19初出)
(田村 2016.5.25更新)