ピクセル深度とダイナミックレンジ
画像の色品質を左右する階調
写真の品質を考える場合、ハイライトやシャドウの細部の再現性が問題になることがよくあります。写真画像では、色の微妙な変化をきちんと再現できているかどうかが重要なポイントですが、中間の濃度はきれいに再現できていてもハイライトやシャドウで微妙な変化がなくなってしまっていることが少なくないのです。
DTPでは色の変化の度合いを「階調」と言いますが、画像のハイライトやシャドウの再現性が十分でない状態は「階調が足りない」と言い換えることができます。
通常、印刷画像で表現できるのは256階調とされています。これは、色の濃淡を表現する網点がその大きさを256段階に変化させるということを意味します。印刷のインク濃度は言うまでもなく0%(つまりインクなし)から100%(ベタ)までしかありません。その間で256段階に変化するわけですから、普通であれば十分なはずですが、実際にはシャドウやハイライトで階調が不足してしまうのです。
その原因として、ひとつには、印刷ではハイライトやシャドウの階調再現性が弱いということが挙げられます。たとえば網点が1~2%しかないハイライトは通常の印刷では正確に再現できず、網点が飛んで0%と同じインクのない状態になってしまいます。同様に、99%のシャドウは網点がつぶれてベタと同じになってしまうわけです。
他の理由としては、元のデータにある階調を補正によって変化させることで、再現に必要な階調が不足してしまうということもあります。
デジタル画像は小さなピクセルが集まって構成されています。各ピクセルにはそれぞれ階調の情報が保存されており、隣り合ったピクセルの階調差が小さければ小さいほどその部分の色は滑らかに変化しますが、全体としては256階調しかない(8bit画像の場合)ので色の差は最小でも約0.39%程度です。
たとえば画像が暗すぎてシャドウ部分の微妙な違いが分かりにくいような場合、Photoshopのトーンカーブなどでシャドウ側を明るく補正したりしますが、それによってシャドウ部分のピクセルの階調差は大きくなります。といっても全体で256階調という枠組みは変わらないので、階調が1段階(0.39%)上がるところが2段階(0.78%)上がるようになるわけです。
0.39%刻みで変化していたのを0.78%刻みにするわけですから、それだけシャドウ部分は色の変化が粗くなります。また、全体で256階調しか使えないところを、シャドウ部分で余計に階調を使ってしまうと、今度は他の部分の階調が不足してしまいます。中間の濃度の階調を削ると画像全体が眠い印象になるのでそれはできるだけ避けるとなると、ハイライトでつじつまを合わせるしかありません。
元データで0~20%(51階調)の範囲で変化していたハイライト部分が、シャドウを明るくしたことで割を食って0~10%の範囲に押し込められた場合、階調数も半分(25階調)になります。それによって、本来表現されるはずの色の変化は失われ、下手をするとのっぺりとした感じになりかねません。
結局のところ、ひとつの画像内で使える階調が限られている以上、補正をすることでどこかの階調が犠牲になるのは避けられません。ただ、ひとつの写真の中には、階調が失われてもそれほど目立たない部分があるはずです。補正をする場合は、どの部分であれば階調を多少犠牲にしても大丈夫かを見極める目も大切になってくるわけです。
ピクセル深度とダイナミックレンジの拡大
DTPのデジタル画像は、これまで基本的にピクセルの濃度情報を各チャンネル8bitで表現してきました(この場合、8bitをピクセル深度と言う)。8bitだとちょうど256階調になるので、印刷データを扱うDTPでも都合が良かったのです。
ただし、補正によって部分的に階調の偏りが生じることを考えると、8bitで十分というわけではありません。そこで、最近のPhotoshopは16bitで画像を扱えるようになっています。16bitだとデータ量は巨大になりますが、階調数が一気に65,536に増えるため、かなり補正しても階調が飛んだりするようなことにはなりません。というのは、16bitで階調がある程度ジャンプしても、最終的に印刷で使う8bitに変換するので、256階調では滑らかな変化になるからです。
もちろん、16bitの恩恵を最大限享受するためには、元データが16bitで作られていなければなりませんが、最近はスキャナも16bitをサポートしており、またデジタルカメラのピクセル深度もハイエンド機では8bitを超えるようになってきましたので、メリットを感じることはできるはずです。
なお、カメラ撮影の場合、ダイナミックレンジの問題も重要です。ダイナミックレンジとは、データの最小値から最大値までの幅のことです。カメラは光の量を記録する装置であり、取り込まれる光の量によって色の濃淡が決まります。ただ、どんな光量でも扱えるわけではありません。
フィルムカメラにもデジタルカメラにも絞りとシャッターがありますが、これらはカメラに取り込む光の量を調整します。光の量があまりに多すぎると真っ白に、少ないと真っ黒になるので、光の量を絞りとシャッタースピードでコントロールしているわけです。
ところが、撮影する画像全体で暗い部分と明るい部分があり、その差があまりに大きいと、絞りやシャッターで調整しきれなくなります。つまり、光量を絞ると暗い部分が正確に記録できず、多く取り込むと明るい部分が真っ白になってしまうのです。カメラで記録できる光量の最小値と最大値は、絞りやシャッタースピードで変動しますが、最小値から最大値までの範囲、すなわちダイナミックレンジはフィルムやデジタルカメラの撮像素子(CCD)によって決まってきます。
これまでは、カメラやフィルムのダイナミックレンジを超える光量差のある風景を正確に撮影することはできませんでした。ただし、最近多くのデジタルカメラに備わっているオートブラケット機能(一度シャッターを押すと、露出を変えながら数コマ連続で撮影する機能)を使えば、カメラのダイナミックレンジを超えた光量差の画像を撮影することが可能です。
Photoshop CS2では、こういった露出を変えて撮影した複数画像を一枚の画像にまとめる機能が備わりました。複数の画像をまとめる際、ピクセル深度が8bitだと結局ダイナミックレンジが狭い画像にならざるを得ません。そこで、この機能では、ピクセル深度を32bitに拡張したHDR(ハイダイナミックレンジ)画像を使います。
32bitというと実に4,294,967,296階調、仮にそれまでのダイナミックレンジを6倍に拡大したとしても、従来の16bit画像の1万倍もの階調数が維持できる計算です。事実上、どんなに補正してもロスが感じられないレベルですから、とりあえず用途を限定せず、とにかく正確な階調変化を維持した画像を保存したいといった場合に最適な機能と言えます。
(田村 2007.6.4初出)
(田村 2016.5.27更新)