レイヤー0の秘密
レイヤーという考え方
現在、ほとんどのDTPソフトにレイヤー機能が備わっています。Adobe製品のレイヤー機能は、文字や線などのオブジェクト、さらに各種処理や効果をもレイヤーという層(シート)に収納するというもので、元のデータにレイヤーを乗せるだけでオブジェクトや処理を加えることができる優れた仕組みです。
レイヤーをオン・オフするだけでオブジェクトの追加・削除や効果の適用・不適用をコントロールでき、グループごとにレイヤー単位でまとめてあればグループを一括で処理するにも便利なため、活用している人は多いでしょう。
基本的に、レイヤー機能はデータにレイヤーを1枚ずつ重ねる(IllustratorやPhotoshopはレイヤーをグループ化することもできる)という構造になっています。重ねる順番によって、各オブジェクトの重なりや効果を変えられるというのも特徴です。
背景レイヤー
IllustratorやInDesignの場合、すべてのレイヤーは同じ役割を持っており、データはどのレイヤーに収録してもよく、また、レイヤーの順番も自由に変更することができますが、Photoshopの場合は、一般的なレイヤーのほかに背景レイヤーという“レイヤー”があり、このレイヤーだけは必ず一番下の階層に置かれます。
InDesignやIllustratorの場合、台紙(ページ領域やアートボード)はあくまでデータの目安であり、データそのものの領域を示すものではありません。つまり、土台のデータという考え方をしなくても問題ないわけです。
一方、Photoshopの画像は基本的にピクセルの集まりであり、画面で表示されているデータ領域の中は常にデータが存在するはずです。おそらくこれが、背景レイヤーという特殊なレイヤーが存在している理由でしょう。
画像データの場合、まず、ピクセルの集合を定めることでデータ領域を定義します。これはいわば土台であり、たとえ色の階調情報がなく全面が白だったとしてもそれだけで画像データとして成立するものです。
その上に乗せるレイヤーは、色などの情報データを含めることができますが、含まなくてもかまいません。つまり、情報のない透明なレイヤーを重ねることもできるわけです。
あらためて背景レイヤーと通常のレイヤーの違いをまとめると、背景レイヤーは画像の土台であり必ず画像領域全体のピクセル情報を持っているが、通常のレイヤーは上にかぶせるシートであり、一部の情報だけ、あるいは情報がないものもあり得るということが挙げられます。
レイヤー0
背景レイヤーは土台のレイヤーなので一番下に固定されていますが、Photoshopには、背景レイヤーを一般的なレイヤーと同じように扱えるようにする機能も用意されています。
レイヤーパレットで背景レイヤーをダブルクリックするか、あるいはメニューの「レイヤー」で「新規」-「背景からレイヤーへ」を実行すると、背景レイヤーが「レイヤー0」というレイヤーに変わります。
背景レイヤーをレイヤー0にすることで、ほかのレイヤーと順番を入れ替えるなど、通常のレイヤーと同じ扱いが可能になります。ちなみに、レイヤーを背景レイヤーに戻すには、「レイヤー」メニューで「新規」-「レイヤーから背景へ」を実行します。
背景レイヤーをレイヤー0にしても、そのままだと外観的には何も変わりません。保存する際も、EPSだとレイヤーが統合され背景レイヤーだけになるので保存ダイアログに警告マークが現れますが、PSDやTIFFはレイヤーを含めることができるため、背景レイヤーがないことに気づかない可能性もあります。
見た目が変わらない以上、背景レイヤーがあるかないかはどうでもよいことに思えるかもしれませんが、実際にはトラブルになることもあります。
レイヤー0は透明データ
先ほど解説したように、背景レイヤーはすべてのピクセルが揃っていますが、レイヤー0は通常のレイヤーと同じく一部にしかデータがないものもあり得ます。たとえば、消しゴムツールでレイヤーの一部を消すと、背景レイヤーは背景色(普通は白)になりますが、レイヤー0はデータが存在しないことを表す透明グリッドが見えてきます。
背景レイヤーと違い、レイヤー0は土台の役割を担っているわけではありませんから、透明であっても不思議ではないのですが、そうなるとピクセルが隙間なく敷き詰められた通常のデジタル画像とは言えなくなります。これが問題になってくるのです。
背景レイヤーをレイヤー0に変換したデータをPSD形式で保存し、InDesignに貼り込んでみると、画像は透明効果を含む画像として扱われます(ただし、TIFF画像は透明効果と認識されない。TIFFの場合はInDesignがレイヤー0を背景レイヤーとして取り込むとも考えられる)。
ページ内に透明効果のオブジェクトがある場合とない場合では、InDesignの出力時の色の処理に違いが出てくることがあります。たとえば、InDesign CS4から色分解「コンポジットの変更なし」にして出力すると、文字やケイなどのスミベタのオブジェクトが「C,M,Y,K=0,0,0,100」のDeviceNになり、オーバープリントが効かなくなります(InDesign CS5だとSeparationのK100となるのでオーバープリント処理される)。
また、同様にRGB画像を貼り込んだドキュメントを「コンポジットの変更なし」で出力しても、透明画像が同じページにあればRGB画像は「透明ブレンド領域の設定」によってCMYKに変換されます。
要するに、背景レイヤーがレイヤー0になっているだけで、オーバープリントが効かなかったり画像がひとりでに変換されるといったことが起き得るわけです。レイヤーを使った画像の加工を行う際は、背景レイヤーについても気をつけることが必要なのかもしれません。
(田村 2010.8.2初出)
(田村 2016.5.31更新)