渋沢栄一記念財団―渋沢史料館
明治・大正・昭和にかけて日本の実業界をリードし、数えきれないほど多くの企業や人材を育てた渋沢栄一。現代日本の基礎を築いたといっても過言ではないこの人物の業績を詳しく伝えるのが東京都北区の飛鳥山公園内にある「渋沢史料館」です。
渋沢栄一が生涯で起業した、あるいは設立に関わった企業は500を超えると言われており、その中には現在の王子製紙やみずほ銀行(国立第一銀行)、 日本郵船、東京証券取引所、東京ガス、帝国ホテルなど日本を代表する有名企業も少なくありません。また、社会活動にも力を注ぎ、一橋大学(商法講習所)や 日本女子大学、東京女学館といった学校、日本赤十字社、東京慈恵会、聖路加国際病院などの設立・運営に携わっています。
ちなみに、渋沢史料館のすぐそばには「紙の博物館」がありますが、これも渋沢栄一が起業した旧王子製紙の資料を元に設立された博物館です。
日中版の小冊子を制作
インフォルムは、2008年夏、渋沢史料館の運営母体である「渋沢栄一 記念財団」発行の『歴史的視野の中の渋沢栄一』『歴史視野中的渋沢栄一』という2冊の小冊子を制作しました。いずれも同財団理事長の渋沢雅英氏が中国の大 学で行った講演をまとめたもので、『歴史的視野の中の渋沢栄一』は日本語、『歴史視野中的渋沢栄一』は中国語で書かれています。もともとは英語版が最初に 作られ、それをベースにして日本語版と中国語版が作られました。
さて、博物館と出版物といってもその関係がピンとこないという方がいるかもしれません。博物館では、常設の展示のほかに、期間限定の企画展示、特別展もよく行われていますが、その際、展示物関係の図録を一冊の本にまとめて刊行し、窓口などで販売することがあります。
渋沢史料館でも、企画展示の資料を収録した図録集を多く刊行しています が、そのほかに、渋沢史料館を運営する渋沢栄一記念財団の会員誌『青淵』(せいえん)を定期発行するなど、少なくない数の出版物が作られています。ただ し、今回のような講演録、しかも日中英の三か国語版を作るということはそれまでありませんでした。中でも、中国語版については担当者も思わぬ苦労があった ようです。これらの編集を担当した渋沢栄一記念財団の山下勝氏に話を伺いました。
財団法人渋沢栄一記念財団総務部 山下勝氏
「特に中国語に関しては、翻訳していただいた先生だけが頼りだったの で、たとえば、ゲラを送って校正を見てもらう場合でもタイムラグがあったりと、校正の部分で不自由がありました。内容は別にして、言葉の間違いを見つける だけであれば普通の校正者にお願いしてもよかったわけで、そういう点で準備不足だったかなと感じています。
今まではあまり中国語版を作るということはなかったのですが、これからは状況によって多言語化していく可能性があるので、今後のことを考えると校正者をつかまえておく必要はあるかと思います。
インフォルムから戻ってきた原稿に疑問点などが付箋で付けられていたのも助かりました。通常はあまりしないことだとは思いますが、慣れない中国語でこちらが気づかない部分も結構あったのでそれはありがたかったですね」
中国との人的・物的交流が盛んになってきた昨今、中国語で書かれた印刷物も増えています。ただし、日本語や英語に比べて中国語が分かる人は少ないのが現状であり、制作段階での文章のチェックをどうするかということはこれからますます重要な問題になっていくでしょう。
なお、組版作業においても、正しいDTPデータを作るためには、多言語 の処理に慣れているかどうかが大切な要素となります。今回のレイアウトで使ったAdobe InDesignは日本語以外の言語にも対応していますが、ソフトが対応しているから問題ないデータが作れるとは限らないのです。インフォルムは英語、中 国語など日本語以外の印刷物も数多く手がけており、今回も大きなトラブルはありませんでした。
山下氏
「デザイン的な部分で言うと、今回は先に作ってあった英語版をベースに作ったので、それに引き摺られてしまったということはありました。まあ単純な本なのであまり工夫してもらう部分もなく、デザイン面での力を見ることはできなかったかもしれません。
もっとも、デザイン専門のところに頼めば凝ったものは作ってくれるので すが、中身とのつながりはどうなのかということもあります。デザイナーと制作の現場と、それから営業が意思の疎通ができていると本当に早いですね。今回 は、最初のデザインと見本を出していただくまで結構早かったので助かりました。
組んでいただいたものに関して言うと、それ自体には全く問題がなかったと思います。作ったものはいつも各職員にも配るのですが、他の人たちの印象も悪くなかったようです。
また、営業に関しては、丁寧でレスポンスが早くて助かりました。メールを送ってもすぐ返事が返ってくるので、相談はとてもしやすかったですね。メー ルだけでなく何度も実際に来てもらったので、いろいろとお話しさせてもらい、その中で調整させてもらったのでやりやすかったです。
定期物であればメールでも宅配便でもやり取りはできるのですが、新しいものを作る時にはちゃんと来てもらったほうが助かります。来てくれれば、そのついでに相談とかもできるわけですから。今回は結構細かい対応もしてもらいました。
印刷のやり取りでは、営業の存在はやっぱり重要です。現場のことをよく 分かっている営業だとこちらもやりやすいんですよ。「これくらいならすぐできますよ」というようにすぐに言ってもらえるとありがたい。こっちが聞いてもな かなか答えが返ってこない営業マンって結構多いんです。連絡がなかなか来なかったりすると、こちらのことも知ってもらえないし、向こうの現場の状況も分か らないので、やりづらいですね。
うちは出版専門のところではないので、その場その場で行き当たりばった りになる部分があります。出版に詳しい営業だと『こうしたほうがいい』とか言ってきたりすることもありますが、通常の出版社と違いできないこともあるわけ です。今回やってもらった仕事は、そういう点でも私としては進めやすかったと思います」
渋沢史料館Webサイト(http://www.shibusawa.or.jp/museum/)