文字の修飾
ボールドとイタリック
印刷物などでは、文章で強調したい語句や注目させたい部分、あるいは特別な意味を持たせたい言葉がある場合、ほかと区別をつけるために見た目を変えるということがよくあります。
もっとも基本的な方法は、文字そのものを変えるというものです。つまり文字サイズや書体を変えるわけです。欧米では、書体を通常よりも太く(ボールド)したり斜め(イタリック)にすることが一般的に行われており、Wordなどのビジネスソフトにもこれらの機能が備わっています。Wordで言えば、リボン(ツールバー)のフォントにある「B」がボールド、「I」がイタリックにするボタンです。
ところが、欧米向けに作られたこれらの機能を日本語で使う場合はトラブルが起きる可能性があり、注意しなければなりません。実は、これらの機能は、ボールド書体やイタリック書体(さらにボールドイタリック書体も)が用意されているフォントファミリーを使う場合に便利な機能であるものの、それ以外の書体で使うと問題が生じることがあるのです。
たとえば、「Times New Roman」というフォントはWindowsでも基本的な欧文書体であり、ほとんどのマシンに入っているものです。このフォントには、「Times New Roman Bold」「Times New Roman Italic」「Times New Roman Bold Italic」という仲間のフォントがあり、この4つでフォントファミリーを構成しています。
WordでTimes New Romanが指定されている場合に、文字を選択して「B」ボタンを押すと、自動的に「Times New Roman Bold」になり、「I」ボタンを押せば「Times New Roman Italic」に書体が切り替わります(両方押せば「Times New Roman Bold Italic」)。いちいちフォントを選択しなくてすむので便利な機能ではあるのですが、もし和文フォントのようにボールドやイタリックのファミリーが存在しないフォントだった場合は、フォントを切り替えられません。
そこでWordは元のフォントの文字ごとにデジタル処理を加えてボールドやイタリックを再現しています。ボールドの場合は、文字の輪郭線に線幅を持たせることで太字に見せているので、文字の形によっては部分的につぶれたり不自然になったりする可能性があります。イタリックについては、単純に斜めに変形しているので、イタリックというよりオブリーク書体に近いものです。
特に日本語書体の場合、ボールドやイタリックの書体が別に用意されていることはまずないので、常にこれらの変形処理が行われることになります。ただ、品質を考えると、日本語書体でこれらの機能を使うのは控えたほうがいいかもしれません。組版の品質を優先するのであれば、やはり面倒でもそれぞれ書体を変更するほうが安心です。
なお、この機能はWordだけでなくDTPソフトであるAdobe PageMakerにも備わっていましたが、後継ソフトのInDesignではなくなりました(文字を斜体に変形する「歪み」という機能はある)。
InDesignの網掛けの処理
字体以外に文字の強調のために行われる処理としては下線、網掛けなどがあります。下線については、多くのソフトに搭載されているので説明は不要でしょう。もちろんInDesignにもあります。
一方、網掛け機能はこれまでInDesignにはありませんでしたが、下線機能を利用して文字をカバーする線幅で色が薄い下線を設定することで、文字に対する網掛けは可能でした。
さらに、CC2018から「段落の囲み罫と背景色」機能が追加されたことで、段落単位での網掛けが極めて簡単かつ自由度が高くなりました。あくまで段落に対する処理なので、Wordにあるような文字単位での網掛け機能ではありませんが、この機能を使って網掛けする文字をインラインオブジェクトにして背景色を指定すれば同様のことは可能です。
ただし、途中で改行が入って、しかもそれが文字の増減で動くと考えると、これまでのように下線機能を使った網掛け処理のほうが便利でしょう。
InDesignで囲み罫
InDesignで文字を罫線で囲む「囲み罫」を作る場合、これまでであれば表機能を利用したりしていましたが、上記の「段落の囲み罫と背景色」を使えば段落単位での囲み罫は簡単に処理できるようになりました。
文中の語句に囲み罫を付けたい場合は、やはりインラインオブジェクトを使うことになります。インラインオブジェクトに「段落の囲み罫と背景色」を適用するだけで簡単に囲み罫を入れることができます。
なお、囲み罫の途中で改行が入るような場合、Wordの囲み線機能であれば自動的に改行に応じて罫を入れてくれますが、InDesignのインラインオブジェクトでは対応できません。
InDesignは豊富な日本語組版機能を備えたソフトですが、文字の修飾などの多彩な要求全てに対応しているわけではありません。求められるデザインを表現するには、それなりの工夫が必要かもしれません。
(田村 2008.3.17初出)
(田村 2023.11.20更新)