和欧混植時の組版処理
行中の文字揃えの処理
国際化が進んだこともあって、最近は日本語の印刷物で欧文が混在していることも多くなってきました。
写植には、和文書体にデザインを合わせた従属欧文というものがあって欧文を組む際に使われていました。DTPの和文フォントにも和文書体に合わせたアルファベットが収録されてはいますが、実際に欧文の文章を組んでみるとやはり専用の欧文書体のほうが自然で無理なく組めることもあり、数が豊富で多彩な欧文フォントを使いたいというニーズは少なくありません。
和文と欧文は組版処理にかなり違いがあり、通常はそれぞれ別の組版処理を施すことになります。ただし、和文と欧文がそれぞれきちんと分かれている場合はいいとしても、同じ文章中、あるいは段落中で混在しているような場合は、処理するにも特別の注意が必要になってくることがあります。
和文と欧文が同じ行中に混在する場合に、まず考えなければならないのが文字の位置をどのように合わせるかという問題です。日本語フォントの文字を作る場合、「仮想ボディ」という四角いエリアを想定し、その中に納まるようにします。実際の字面の領域は文字によって異なりますが、必ず仮想ボディに納まるようになっているわけです。
仮想ボディをぴったり並べたのがいわゆる「ベタ送り」です。仮想ボディ自体は同じ大きさで等間隔に並びますから、仮想ボディと実際の字面との間のアキをどうするかがフォントデザインのポイントであり、文字品質を大きく左右する要素にもなります。基本的には仮想ボディの中央に文字がくるようにデザインされています。
一方、欧文の場合は横組みしかなく、各文字の幅も違うので、横のラインが重要です。小文字のxの高さを基準(xハイトと呼ぶ)にして、dやhなどのそれより上に出る部分はアセンダと呼び、上端のラインをアセンダラインと言います。また、gやj、pなどのxより下に出た部分をディセンダ、下端のラインはディセンダラインと言います。
ディセンダを除いた文字の下のラインを「ベースライン」と言い、これが欧文の組版における基準線となります。ベースラインを揃えることで、高さがバラバラな欧文文字でもきれいに組むことができるのです。
和文は仮想ボディの中央で揃え、欧文はベースラインで揃えるというわけですが、ベースラインの位置は和文における仮想ボディの中心と下端の間であり、しかも書体ごとに異なった位置になるため、そのまま和文と欧文を混在させると行が揃わず、ちぐはぐな印象を与える場合があります。
また、欧文フォントは同じ文字サイズでも和文フォントよりも小ぶりに見えることが多く、特に小文字が続く場合は小さすぎる印象を与えかねません。基本的に、和文のサイズに比べてxハイトがあまり小さくない書体のほうがバランスがとれるでしょう。なお、ベースラインの位置はxハイトとの兼ね合いで調整することになります。和文と合わせる欧文を選ぶ際は、明朝・ゴシック(セリフ・サンセリフ)の別や、ウエイトなども重要なポイントです。
InDesign(インデザイン)の「合成フォント」機能を使うと、異なる和文書体と欧文書体を組み合わせて一つのフォントとして扱うことができます(漢字、かな、約物、記号など6種の文字種単位で組み合わせられる)が、その際、ベースラインやサイズを個別に調整することが可能です。たとえば、和文に合わせると小さめに感じる欧文書体であっても、欧文のサイズだけを大きく指定し、ベースラインを調整すれば、和欧混植で違和感のないようにバランスを取ることができるわけです。設定画面にはサンプル表示機能も備わっているので、画面を見ながら最適なベースラインやサイズを追求できます。
なお、合成フォントはそのフォント名に使える文字に制約がある上、バージョンアップした際にフォント名が重複するなどトラブルが起きやすい機能なので、注意が必要です。
行送りの注意点
InDesignには、「日本語単数行コンポーザー」「日本語段落コンポーザー」「欧文単数行コンポーザー」「欧文段落コンポーザー」「多言語対応単数行コンポーザー」「多言語対応段落コンポーザー」という6つの組版方式が用意されています。指定してみると分かるように、それぞれ組版結果が異なり、日本語の場合は日本語、欧文は欧文のコンポーザーを使うのがベストです(ちなみに「多言語対応コンポーザー」はインド、中東、東南アジア諸言語用の設定)。
たとえば英文とその訳文のように、欧文の段落と日本語の段落が交互に続くような場合、それぞれの言語用コンポーザーを指定すればいいのですが、それによって問題が生じることがあります。
行送りを指定した場合、デフォルトだと日本語コンポーザーの段落では指定された行から次の行までの送りが決まりますが、欧文コンポーザーの段落は前の行から指定された行までの送りが決まるのです。そのため、各行に日本語コンポーザーと欧文コンポーザーが交互に指定されていたりすると、行送りが二重に適用されて広がった行と指定がなくてベタ送り(行間ゼロ)になった行が作られてしまいます。
InDesignの段落設定には「行送りの基準位置」というメニューがあります。これは日本語の行送りを指定する際の基準を定めるものですが、デフォルトで「仮想ボディの上/右」となっています(他に「仮想ボディの中央」「欧文ベースライン」「仮想ボディの下/左」がある)。この設定になっていると、指定された行から次の行までの送りが調整され、他の設定だと前の行から指定された行までの送りが調整されるのです。
欧文の基準はベースラインで固定ですから、和文も「欧文ベースライン」に指定しておけば通常は問題ないはずです。
なお、同じ段落中に和文と欧文が混在する場合、日本語がメインであれば日本語コンポーザーを、欧文がメインであれば欧文コンポーザーを使用するほうがいいでしょう。欧文メインの文章に日本語コンポーザーを適用すると、文字組みなど日本語独自の機能が適用されて思わぬ結果になることがあります。
和欧間のアキ
和文と欧文が文中で混在している場合、文字種の違いを読む側に判別しやすくする、また、そのままだと和文の文字とアルファベットが近くなりすぎて可読性が落ちるのを防ぐ、などの理由で、和欧間にアキを入れるという処理が一般に行われてきました。
この処理はJISの規格「JIS X 4051-日本語文書の組版方法」でも規定されています(『横書きでは、和文と欧文との間の空き量は、四分アキを原則とする。ただし、行頭、割注行頭、行末及び割注行末には、この空き量を入れない』)が、アキ調整も考慮されています(『和文と欧文との間の四分アキ、和文と連数字との間の四分アキ及び和文と単位記号との間の四分アキを、最小で八分アキまで文字サイズ比で均等に詰める』)。
InDesignの文字組みアキ量設定はデフォルトですべて和欧間は四分アキ(最小八分~最大二分)になっていますが、「文字組みアキ量設定」では全角の1万分の1単位でアキをコントロールできます。
では、和欧間のアキはどうするのがいいのでしょうか。最近は和欧間を全く空けずに組んである印刷物も多く見られます。確かにアルファベットが頻繁に出てくる文章で和欧間を空けるとスカスカに見えることもあります。
ただし、言語だけでなく、デザインの設計思想そのものが違う書体同士を、アキなしで組んだ場合、和欧間が詰まりすぎて読みにくくなる可能性は否めません。たとえデザイン的にはいいとしても、文章を読ませるという目的を重視するのであれば、やはりある程度のアキはあったほうが読みやすいのではないでしょうか。
もちろん、JISに書いてあるからといって、必ず四分アキでなければならないというわけではありません。書体の組み合わせや欧文の頻度によっては八分アキくらいのほうがいいということもあるでしょうし、案件に応じて柔軟に対応してよいでしょう。
なお、文字組みアキ量設定は日本語コンポーザ―以外の設定では動作しません。欧文コンポーザーで和欧間のアキを入れるには、カーニングやトラッキングを使うことになります。もっとも、単語間にスペースが入る欧文メインの文章であればスペースだけでも問題ないでしょう。
言語の指定
InDesignでは、文字パネルで言語を指定すると、その言語に応じて参照される内蔵辞書が選択され、自動ハイフネーション処理を行うことができます。つまり、ハイフネーションを自動で処理したいのであれば、その言語を指定しなければならないわけです。
では、和欧混植の場合はどうすればいいのでしょうか。和欧混植のテキストを選択し、言語を「英語」にすると、日本語部分は英語にならず日本語のままで、1バイト文字部分だけが英語になります。また、言語設定を他の言語にしても日本語の組版自体は可能ですから、スタイル設定で言語を指定することもできます。なお、InDesign日本語版のデフォルトでは言語に「日本語」が選ばれていますが、日本語だと自動ハイフネーションの処理は行われません。
また、環境設定の「テキスト」で「英文引用符を使用」にチェックを入れていると欧文用引用符(シングルクォーテーション、ダブルクォーテーションともに)が使えるようになります。引用符の形や使い方は言語によってさまざまですが、文字パネルの「言語」の指定によって自動的に各言語用の引用符が適用されます。
例えば、英語の場合、スペースの後に入力したクォーテーションマークは自動的に“開き”になり、スペースの前に入力したクォーテーションマークは“閉じ”になります。また、これをフランス語に変更すると、既存のマークは変化しませんが、それ以降はフランス語の引用符である“ギュメ”で入力されるようになります。
(田村 2008.8.18初出)
(田村 2024.6.28更新)