色温度
光の色を表す温度
昔、「真っ赤に燃えた太陽だ~から~」なんていう出だしの歌がありました。真っ赤な太陽と言われても私たちは特に驚いたりしませんが、実は太陽が赤いと思っているのは日本人くらいなもので、欧米では金色や黄色で表現することが多いそうです。確かに太陽をよく観察してみると、正午ごろはもちろん、朝日や夕日であっても赤くは見えません。
太陽そのものの色はさておき、朝焼け、夕焼けという言葉があるように、朝や夕方の日の光に照らされた雲などが赤く輝くのは誰もが見知っていることではないでしょうか。これは、太陽光線が空気の層によって減衰され、光の波長の分布に偏りが生じていることを意味しています。
私たちは、光の波長の分布を色として認識します。全ての波長が満遍なくある光は白色光であり、長い波長の光が多ければ赤く、短い波長が多ければ青く感じるのです。この光の波長の分布状態を数値で表現するのが「色温度」です。
テレビの映像などで、溶鉱炉で煮えたぎった鉄が赤い液体となって流れる光景を見たことはないでしょうか。鉄に限らず、どんな物体も高温で熱すると光を発します。物体から発せられる光の波長の分布(すなわち「色」)は、熱せられる温度によってオレンジから黄色がかった白、そして青へと変わっていきます。
仮に完全な黒の物体があるとして、この物体を熱し、発せられる光の色は、熱する温度で表すことができます。これが色温度なのです。色温度は絶対温度(摂氏マイナス273度を0度とする)で表され、単位はケルビン(K)です。
色温度は光の色を表すものですが、感覚的な言葉ではなく数値で色を扱うためには重要な指標です。たとえば、ろうそくの光の色は色温度で2000K、白熱灯は3000K、蛍光灯だと色々ですが4000K~7000Kあたりが一般的でしょう。また、明け方や夕方の日光は2000K程度ですが正午ごろになると6000K以上にもなります(明るさとは関係ないので注意)。なお、同じ昼の時間帯でも、晴天の日向より曇天や日陰のほうが色温度は高くなります。
環境光の評価
色を扱う現場において、照明の色温度の調整は必須の作業と言っても過言ではありません。なぜそれほど重要なのかと言うと、光の色が全ての物体の色に影響を与えるからです。
印刷物の色について考えてみます。印刷されたインクは、光がない状態では色として見ることができません。印刷の色は、光がインクを透過、紙に反射することで特定の波長の光が抽出され、それが眼に入ることで人間が認識できるようになります。この場合、元の光に色が付いていたら(つまり始めから光の波長が偏っていたら)印刷の色もそれに影響されて偏ってしまうことになります。
さらに、人間の視覚というのは環境に合わせてひとりでに色を調整するようになっています。たとえば白い紙を赤い照明で照らせば赤く見えます。しかし、赤い照明の部屋にずっといると、赤く見える白い紙を何の疑いもなく白だと認識するようになります。これは、人間が色を“脳で”認識している証拠です。
照明光の色温度によって印刷物の色が変わってしまう、しかもそれをチェックする人間の感覚すら環境光に影響されるわけですから、色温度をきちんと管理しないと印刷物の正しい色なんて評価することはできません。
そこで、印刷物を評価するための色温度には基準が設けられています。日本では5000Kを印刷評価用の標準光源としています(D50という)が、これは蛍光灯の「昼白色」とほぼ同じです。蛍光灯には他に「昼光色」や「白色」などがありますが、印刷物を扱うのであれば昼白色を選んだほうがいいでしょう。
なお、印刷評価用の光源としては、色温度以外に「演色性」というものも重要です。演色性が高いほどさまざまな波長の光を含んでいるため、色の再現性が良くなります。逆に言うと、演色性の良くない照明は色の評価には使えません。
色温度の調整
部屋の照明は別として、DTPで問題になるのがモニタの色温度です。モニタの色合わせはカラーマネージメントの基本ですが、その際、色温度をどこに設定するかによって、表示される色が違ってきます。
テレビの色温度は9000K以上という青白い設定になっていますが、モニタの場合もそのままだとこれに近い値です。DTPで使う場合、日本の印刷標準である5000Kに合わせるか、あるいは国際的に広く使われている6500K(D65という)に合わせるのが一般的です。以前は色温度を調整できるモニタが少なかったのですが最近は一般的になりました。また、キャリブレーションソフトを使ってソフト的に調整することもできます。
印刷物とできるだけ同じ色をモニタで表示するべきと考えると色温度はD50に合わせるべきかもしれませんが、RGB画像のカラースペースとして普及してきたAdobeRGBはD65を基準にしており、RGBデータを扱うのであればD65に設定するほうがいいかもしれません。
デジタルカメラでも色温度は大切な要素です。写真撮影はライティングがポイントですが、色温度の違いを把握していないととんでもない色で撮影されてしまう危険があるのです。現在、たいていのデジタルカメラにはホワイトバランスを調整する機能が備わっていますが、このホワイトバランスの機能が色温度の調整になります。
先ほど、人間は環境光に合わせて視覚を調整すると言いましたが、デジタルカメラのホワイトバランスはこれと同じ役割を持っています。ホワイトバランスを取るには、白い紙などをカメラに写してその色を白として認識させます。「白=環境光の色温度」とみなすことができるので、これによって環境光の偏りによる色の変化を補正することが可能になるわけです。
色の表現に光が欠かせない以上、色を扱う私たちにとって色温度を無視することはできません。カラー印刷の品質を確保するためにも、正しい知識を身に付けたいものです。
(田村 2006.10.16初出)
(田村 2016.6.28更新)