カラーマネージメント その三
印刷のカラーマネージメントの目的
カラーマネージメントというのは何もDTPに限った話ではありません。データの色の再現性が問題になるケースであれば、どんな場合でもカラーマネージメントの必要性はあるはずです。
ただし、目的によってその運用方法は違ってきます。ここでは印刷用データを制作するという目的に基づいたカラーマネージメントの運用について見ていきましょう。
DTPにおけるカラーマネージメントの運用を考える場合、まず、カラー印刷における問題点を整理する必要があります。
カラー印刷でもっとも色が問題になるのは、校正(色校正)と印刷物とで色が違う場合でしょう。クライアントに色などをチェックしてもらうために校正を提出するわけですから、それと実際の製品が異なれば約束が違う、となるのはある意味で当然です。
もちろん、校正と印刷では色の再現方法が違う(デバイスが違う)わけで色が違って当たり前というのも印刷業界の“常識”にあるのですが、いまどきそんな常識を振りかざしていたらクライアントに逃げられてしまうのがオチでしょう。
これまでは、校正と実際の印刷物の色が違わないようにするために、印刷機のオペレーターが色校正紙を見ながら印刷機を調整し、色を合わせるというやり方が行われてきました。つまり、校正に印刷物の色を合わせていたのです。
校正のほうが印刷よりも前の工程である以上、前に後を合わせるのが当然だった(というかそれしか方法はなかった)わけですが、DTPが普及し、校正もデジタル出力機から直接出力するようになって状況が変わってきました。
従来、色校正は平台校正機というオフセット印刷機を使って印刷するか、本番の印刷機を使って本番と同じように印刷していました。オフセット用インクを使い、実際と同じ紙を使ってオフセット印刷する以上、そのまま何もしなくても実際の印刷にある程度近い色になるはずです。
一方、デジタル出力機の場合は、印刷方式もインク(色材)も紙も違うわけで、そのまま何もしなければ同じ色など望むべくもありません。下手をしたら、印刷機では逆立ちしても出せない色が出力されてしまう可能性もあるのです。そうなると、印刷オペレーターがどんなに腕利きでも色は合わせられません。
要するに、デジタルワークフローでは、まず何を基準に色を合わせるのかということから考えなければならないわけです。
基準になる色
印刷で出せない色が基準では困るということであれば、実際に印刷する印刷機の色を基準にするのがもっとも自然でしょう。印刷のカラーマネージメントでは、基本的に印刷機で出せる色(印刷機の色再現領域)を調べ、それを基準にシステム全体のカラーマネージメント環境を構築することになります。
具体的には、印刷機のほかに、インクや用紙を特定し、実際にCMYKのさまざまな濃度を掲載したサンプルを印刷して測定、サンプルのデータのCMYK濃度と実際の色(CIE L*a*b*)が対照されたICCプロファイルを作ります。このICCプロファイルを使うことで、印刷機の色再現領域を特定することができるのです。
印刷の色を基準にする場合、本来であれば各印刷機ごとに基準を作るべきです。しかし、印刷会社が自社の印刷機の色の情報を外部に公開している例はほとんどありません。また、印刷機が複数ある場合、どれで刷るかが最後まで確定しないようなこともあり、基準が基準として通用する状態ではないというのが日本の印刷の現状でしょう。
そこで、日本の標準的な印刷の色を使うというやり方が注目されています。最近よく聞くJapanColorは、大手印刷会社の印刷機を基準に策定された標準色です。厳密な色合わせには向かないという意見もありますが、日本の印刷におけるもっとも標準の色であり、最近は利用も拡大しているようです。
なお、場合によっては印刷機の色を基準にしないカラーマネージメントもあり得ます。その代表が「JMPAカラー」を基準にしたワークフローです。
JMPAカラーは、日本雑誌協会が2001年に策定した雑誌広告基準カラーです。雑誌広告をデジタルデータで送稿するために業界共通の色の基準が必要になることから策定されたこのJMPAカラーは、印刷機ではなくハイエンドDDCP(カラープルーフを出力するために作られた専用出力機。極めて高額だが、色の安定性や再現性などに優れる)を基準に作られました。
JMPAカラーが印刷機ではなく、DDCPの色を基準にしたのは、環境に依存しない色再現を実現するためには、デジタル出力機を基準にするほうがいいという判断からでしょう。
印刷機の色は、各印刷会社によって異なります。雑誌広告の場合、同じ広告が同時にたくさんの雑誌に掲載されるというのが普通ですから、同じ製品なのに雑誌によって色が違ってしまうこともあり得ます。色の安定性の極めて高いDDCPを基準にすれば、こういった問題を解消することができるのです。
JMPAカラーでも、カラーマネージメントシステムを使ってシステム全体の色を管理するというのが理想ですが、アナログ工程における平台校正機に相当するDDCPを基準にしているため、DDCP以外はカラーマネージメントを使わず、DDCPで出力した色校正を基準に印刷オペレーターがマニュアル操作で印刷機を調整し、色を合わせるという従来通りの方法が可能です。
印刷機を元に独自の基準を作るか、あるいはJapanColorやJMPAカラーを利用するかは、仕事や状況によっても違うでしょうが、いずれにしてもカラーマネージメントの運用では基準の色がもっとも重要になるのは間違いありません。
(田村 2006.5.29初出)
(田村 2016.6.24更新)