プロファイルを使った特色シミュレーション
特色印刷用データの問題
2色印刷では特色を使うのが一般的です。その場合、DTPでは特色の代わりにシアンやマゼンタを使ってデータを作ることがよくあります。
現在ほとんどのDTPソフトは、DICやPANTONEなどの特色に対応しており、その色を選ぶだけで表示もプリントアウトもその特色でできるにも関わらず、どうしてプロセスカラーで代用するのかというと、一つにはプロセスカラーのほうが色管理がラクだからということがあります。
2色印刷の場合、使う色の名前をすべてのデータで統一されていなければなりません。InDesignなどのレイアウトデータだけでなく、Illustratorで作った図版も2色以外を使っていてはいけないのです。
たとえば、特色に「DIC 512」を使うはずなのに、もしかしたらIllustratorでは間違えて「DIC 513」を指定してしまっているかもしれません。似たような色だと出力しても違いが分からない可能性があるのです。作業するオペレーターが複数の場合はさらに不統一の危険性が高くなります。それに対して、シアンやマゼンタであれば統一するのも簡単ですし、出力すれば誰でもすぐに間違いに気付くはずです。また、制作段階では、使う特色が確定していないというケースでも代用色を使っていれば問題ありません。
では、代用色を使うデメリットは何でしょうか。プロセスカラーを代用色として使うやり方の場合、もっとも問題になるのは、クライアントが実際の色をゲラで確認したいという意向をもっているケースでしょう。この場合、クライアントが代用色で納得しなければ特色でゲラを出力しなければなりません。
シアンやマゼンタでできているデータを特色にするのは、それほど簡単ではありません。オブジェクトの色をすべて指定しなおすのは大変ですし、図版データなどがあるとさらに面倒です。
そういった場合に便利なのがICCプロファイルを使った特色シミュレーションです。通常、ICCプロファイルは、カラーマネージメント処理でデバイス間の色を合わせるために使われます。ということは、特色デバイス用のプロファイルさえ用意すれば、特色デバイスに合わせた画面表示や出力が可能になるわけです。
特色用プロファイルの作成
まず特色用のプロファイルを作らなければなりません。プロファイルを作るソフトというと高価なツールが必要だと思われるかもしれませんが、簡易的なものを作るだけであればPhotoshopでも可能です。
特色用プロファイルを作るためには、まず特色の色を確認します。Photoshopのカラーピッカーダイアログからカスタムカラーダイアログを出し、使いたい特色を選択します。「ピッカー」をクリックするとカラーピッカーダイアログに戻るので、Labの値をメモしておきます。
次にPhotoshopの「カラー設定」を開き、作業用スペースのCMYKで「カスタムCMYK」を選びます。現われたダイアログの「インキの色特性」で「カスタム」を選ぶと、インクごとの座標値の表が現われるので、下の「L*a*b*座標値」にチェックを入れてLab表示にし、先ほど調べた特色のLab値を入れていきます。なお、たとえばシアンだけを代用色として使う場合でも、CだけでなくCYやCMなど 掛け合わせの色も同じ数値にします。
ちなみに、黒と特色を使う場合は特色が1色だけなので簡単ですが、2色とも特色の場合は、掛け合わせの色を特定し、それをインクの座標値にも反映させる必要があり、かなり面倒になります。
出来上がった設定をCMYKプロファイルとして保存すれば特色用プロファイルの完成です。
特色のシミュレーション
プロファイルを使って特色のシミュレーションをするには、カラーマネージメント機能を利用します。
InDesignを例にとって見てみましょう。ドキュメントを開き、「カラー設定」の作業用スペースのCMYKで先ほど保存した特色用プロファイルを指定します。これで、シアンやマゼンタが特色をシミュレートした色で表示されるはずです。もちろん、この色でプリンタから出力することも可能です。
最近はクライアントがPDFで色を確認したいということもあります。また、別の場所でゲラを出力するケースもあるので、次にPDFを使ったシミュレーションを考えてみましょう。
PDFでカラーマネージメントを使ってシミュレーションする場合も、カラーマネージメントの機能を使います。Acrobatの環境設定にカラーマネージメントの設定があるので、ここで特色のプロファイルを選択すれば特色で表示することができます。
ただし、これだとPDFを閲覧するマシンに特色プロファイルが入っていなければなりませんし、Acrobatのカラー設定をユーザーがする必要もあります。さらに、Adobe Readerだとこういった設定自体がありません。
面倒な手間なしに誰でも自動的に特色をシミュレートしたPDFを閲覧・出力するには、出力インテントに特色用プロファイルが設定されたPDFを作る必要があります。InDesignやDistillerからPDFを書き出す際の出力(CMYK)プロファイル、あるいはAcrobatで色変換やPDF/X変換する際の出力インテントとして特色用プロファイルを選ぶと、AcrobatのデフォルトやAdobe Readerでも特色のシミュレーションが可能になります。
今回説明した特色のシミュレーションはあくまでシミュレーションであり、実際の色と同じになるわけではありませんし、プロファイルを作る作業でミスをする可能性もあります。ただ、プロセスカラーの代用色で作られているデータで、シミュレーションのためにわざわざオブジェクトの色を指定し直すよりは、ICCプロファイルを使うほうがラクに作業できるはずです。
(田村 2007.2.5初出)
(田村 2016.6.27更新)