グラデーションの品質
グラデーションの品質
DTP時代になってグラフィカルな図形が増えてきましたが、中でも、以前であれば面倒な作業が必要だったグラデーションがふんだんに使われるようになったのは大きな変化ではないでしょうか。IllustratorやInDesignのグラデーションパレットを使えば、平アミを指定するような感覚で簡単にグラデーションを指定することができるわけです。
ただし、場合によってはグラデーションが問題になることもあるので、安全性を考えると、使う側もグラデーションの仕組みをよく理解しておく必要があります。
まず、グラデーションとはどういうものであるのかを考えてみましょう。グラデーションとは滑らかに変化するという意味で、印刷では、色が滑らかに変化することを言います。ここで問題になるのは滑らかな変化とはどういうものかということでしょう。
写真画像などでよく連続階調という言葉を使います。階調とは色の段階のことですが、それが連続して変化している(途中で大きく色が変動したりしていない)ものを連続階調と言うわけです。グラデーションも同じく、階調が連続していることで滑らかな変化が再現されます。
従来のPostScriptの仕組みでは、階調は256段階まで使えることになっていました。要するに、印刷で使うインク濃度0~100%を256段階で表現できるようになっていたわけです。256段階(256階調)というと、パーセントに換算するとおよそ0.4%刻みということになります。
これだけあれば十分と思われるかもしれませんが、実際にはそうとも言えません。確かに、256階調あれば写真画像ならたいして問題にはなりませんが、平アミの場合などは、同じ濃度のエリアが広いため、かえって濃度の微妙な違いが目立ってしまう場合があるのです。
グラデーションを引いた場合でも、同じ階調(濃度)のエリアがある程度以上広いと隣の階調との違いが肉眼ではっきりと分かることがあります。階調が変化する境目が目立つのです。直線的なグラデーションだと、階調の境界がグラデーションの向きと垂直になるので、濃度の変化が帯のように見えます。これを「バンディング」といい、ある程度長いグラデーションを使う場合は避けられない現象です。
どういった条件でバンディングが生じるのかというと、階調が変化する境界と境界の間(つまり濃度が同じ“平アミ”の部分)が肉眼で確認できる程度の広さになるというのが目安です。
Illustratorのヘルプによると、階調変化の間隔が2.16ポイント以下というのがバンディングが出ないグラデーションを作るための推奨値のようです。2.16ポイントは約0.76ミリですから、かなり狭い間隔です。
また、全部で256階調しか再現できないことを考えると、最大でもグラデーション全体で195ミリ程度までしか安全ではないということになります。
ちなみに、階調変化の間隔は、グラデーション全体の長さを階調数で割ると出ます。階調数は256×濃度変化の割合で算出されます。濃度変化の割合とは0~100%の変化を1とした濃度変化の度合い。たとえば20~70%のグラデーションであれば0.5となります。256×0.5=128、つまりこのグラデーションは128階調でできている、となるわけです。
安全な幅が1階調につき2.16ポイントですから、128階調だと276.48ポイント、要するにこの場合、10センチ以上のグラデーションにするとバンディングが出る可能性があることが分かります。
グラデーション品質を維持する方法
それでは、グラデーションをきれいに出力するにはどうすればいいのでしょうか。PostScript 3はスムーズシェーディングという機能をサポートしています。この機能を使うと、グラデーションを256階調ではなく4096階調で表現することが可能です。
4096階調だと濃度変化は0.024%刻みということになり、濃度の違いはほとんど目立ちません。階調が変化する間隔も256階調の16分の1になるわけで、よほどのことがない限りバンディングが生じることはないでしょう。
ただし、スムーズシェーディングを使えるのはPostScript 3対応のRIPのみ、しかもPostScript 3対応RIPでも初期のものにはうまく処理できない場合があるようです。
出力する環境が分からない状況で、グラデーションの品質を維持したい場合は、他のやり方を使うほうがいいでしょう。Illustratorの場合、「分割・拡張」機能を使ってグラデーションを前もって分割しておくというのがもっとも安全な方法です。
「分割・拡張」のグラデーションの分割・拡張でオブジェクトの個数を指定して実行すると、グラデーションが、それぞれ微妙に濃度が異なる平アミのオブジェクトに分割されます。
濃度の違いは指定した個数に依存しますが、10000個まで指定できるので、スムーズシェーディング以上に微妙な濃度変化も可能です(ただし、あまり細かくしすぎるとRIPに負担が掛かることも考えられる)。
分割してしまえば、もはやグラデーションではなく単なる平アミオブジェクトの集まりにすぎませんから、グラデーションが抜けるといったトラブルは起きません。ただし、後で濃度を変更したいという場合は困ることにもなりますので、分割の作業は最後の段階で行い、また、分割前のデータは別にとっておくということが必要になるでしょう。
また、グラデーションはビットマップ画像にしたほうがバンディングが出にくいとされています。特に、Photoshopでノイズフィルタを適用するなどして濃度変化の境界を乱すことで、バンディングのリスクはかなり減ります。この方法も覚えておくといいかもしれません。
(田村 2007.4.2初出)
(田村 2016.5.26更新)