数式の組版
数式の組版の難しさ
DTPの組版の中でもやっかいなものとして知られているのが数式です。通常の文章だと、日本語であろうが英語であろうが準備と設定さえきちんとしてあれば、テキストを流し込むだけでほとんど組版が出来上がり、あとは部分的な調整などをするだけです。
ところが、数式の場合は原稿テキストを流し込むだけで出来上がりとはなかなかいきません。いくらタグやスタイルを駆使したとしても、それだけで求められる形の数式を作ることができるほど簡単ではないのです。
数式では、分数や各種の記号が数多く使われます。一般的なフォントに含まれない記号も少なからずあるので、それは専用フォントを使うなりIllustratorで手作りするなりするとしても、これらの組版そのものもそれほど簡単ではありません。
たとえば、記号の前後の文字との間隔を微妙に空けたり、上付きや下付きの文字の位置を微調整しなければならないこともあるでしょう。ルートのように一般的な記号でも、そのまま流し込むだけできちんと組版できる形で用意されているフォントはありませんから処理が必要です。
さらに、プラスやマイナス、イコールといったごく基本的な記号でも、その前後のアキが書体によって違って見えるため、ベタ組みではなくアキを入れたり、ベースラインを調整するといった処理が必要になることがあります。
このように、数式の組版は意外に手間がかかり難しいものです。そのため、一般的なDTPソフトで作るよりも専用の数式組版ソフトを使い、それをレイアウト・ソフトで他の文章と合成するほうが効率的な場合が少なくありません。
数式専用ソフトには、数学記号を網羅したフォントが含まれており、ルートや分数なども入力に応じて自在に形を変えていくなど、数式の組版に特化した機能が備わっています。記号の間のアキや上付き下付きの位置などの調整も簡単にでき、大幅な修正にも柔軟に対応できます。
ただし、専用ソフトを使う場合、基本的に修正なども専用ソフトを使わなければならないため、ちょっとした修正であればレイアウト・ソフト上で修正できたほうがいいこともあります。
なお、専用ソフトによっては、EPSなどに書き出してインライングラフィックスとして貼り付ける方法もありますが、修正が頻繁だと面倒なのも事実です。簡単な数式が少し入るだけ、といったように、場合によってはInDesignなどで数式を組んだほうがいいこともあるでしょう。
分数の組版
具体的に見ていきましょう。実際の数式の組版でまず問題になりがちなのは分数です。
分数では分子と分母が上下に分かれて配置されます。つまり、必ず2行以上になる(分子や分母がさらに分数である“繁分数”だと3行以上になる)わけです。一般的な組版は当然ながら1行単位で組まれているため、一般の組版と分数との整合性が問題になってくるわけです。
数式の前後で改行が入って、他の文章と段落が別になっているのであればまだいいのですが、同じ段落中で行の途中に分数が入るような場合、各行が独立している文章部分と2行や3行にまたがる分数の部分が同じ行で混在することになり、処理が面倒になります。
まず、決めなければならないのは、分子と分母の行間を標準の文章の行間に合わせるか、それとも狭くするかということでしょう。他の行間に合わせると作業や設定はラクですが、行間が空きすぎに見えることが多いという難点があります。狭くすると、分数単独での見た目はいいのですが、他の文章と行の位置が合わなくなります。
狭くした場合は、文中に分数が混在するケースでも行送りを変えずに収められるかもしれません。ただし、数式の場合は上付きや記号などで通常の文字の字面を超えることも多いので、注意する必要はあるでしょう。
また、分子と分母の境にあるケイ(括線という)の位置も重要なポイントです。括線は上下の中心に置かれるのが原則で、1行の文章中に分数が組み込まれる場合は1行の文字の字面の中心に括線を合わせるのが普通です。
繁分数の場合は括線が複数ありますが、基本となる分子分母を分ける括線を中心に合わせます。分母が1行なのに分子が4行もあったりして上が大きくなってしまうと、つい全体の中心、上の場合だと3行目を他の行に合わせたくなりますが、それだとどこが全体の分母か分かりにくくなってしまいます。
なお、ページを2段組や3段組で組む場合、数式が収まらないことがあります。プラス、マイナスやイコールなどがちょうどいいところにあれば改行できるのですが、分数やルートのように改行できない形なのに長くて行長をはみ出してしまうこともあるのです。そういった場合は、コラム(段)を横断する長い行にして入れるといった特別な処理を行う必要もあるでしょう。
数式の組版は、DTPの弱点と言ってよく、効率的な作業で要求された組版処理を行うのはかなり難しいのは確かです。組版レベルをどこまで要求されるかにもよるので一概には言えませんが、よりよい組版を効率的に行うには、それぞれのオペレーターが自分なりに工夫していくことも必要でしょう。
(田村 2009.1.5初出)
(田村 2016.5.31更新)