ノンブルの機能
ノンブルの役割
書籍や雑誌といったいわゆる「ページ物」の印刷物に欠かせない要素として、ページの認識番号すなわち「ノンブル」があります。
「ノンブル」(nombre)はフランス語で「数」を意味する言葉です。なぜ日本の印刷業界においてページ番号をフランス語で表現するようになったのかは寡聞にして知りませんが、“ノンブル=ページ番号”そのものを考案したのは15世紀ベネチアの人アルドゥス・ピウス・マヌティウスと言われています(ちなみに、PageMakerを開発し、DTPという言葉を生みだしたことで知られる米アルダス社の社名は彼の名前Aldusにちなんだもの)。
マヌティウスはグーテンベルクによって開発されたばかりの活版印刷術を使い、数多くの印刷物を世に送り出した、“商業印刷の父”とも言われる人物です。ノンブルが彼によって発明されたということは、印刷物とノンブルはその黎明期から切っても切れない関係にあったと言うことができるでしょう。
ここで、「本」というものの本質からノンブルについて考えてみます(電子書籍はここでは除外)。本においてもっとも大切なのは内容(コンテンツ)であることは言うまでもありませんが、一般的な本では、コンテンツはページごとに分割して収められています。そしてこのことこそが、“巻物”などそれまでの記録メディアと“本”を区別する最大のポイントと言えるでしょう。つまり、本とは、内容がページ単位で分けて収められた構造をしている記録物なのです。
内容が多くなればそれを収納するためのページも増やす必要があります。たくさんのページがある場合に、各ページを認識し、管理するには、それぞれのページに名前を付ける必要がでてきます。その名前として使われるのがノンブルなのです。
ページを管理するということは、各ページに収納されている内容を管理することでもあります。ページによって内容が区分けされ、さらにノンブルによって認識符号が付加されることで、内容を管理できるわけです。たとえば、目次や索引は、内容とノンブルを結びつけて管理することによってはじめて機能します。
一般的に、本の内容は連続するページに順番に収められているので、一冊の本を初めから最後まで一気に読むだけであればノンブルは必要ないでしょうが、途中のページに書かれた内容を参照するような場合、ノンブルの存在は重要です。
ノンブルのさまざまな表し方
ノンブルがページを管理するための番号である以上、すべてのページに連続したノンブルが付けられているというのが管理面では理想です。しかし、現実には、デザイン上の理由などによってノンブルを付けないページもあり得ます。
そういった場合、ページが飛んでも連続したノンブルを付けると、ノンブルが付いていないページがノンブルによる管理から抜け落ちてしまいます。
そこで、ノンブルは見えなくてもそこにあると仮定し、ノンブルがページを飛ばしたらその分だけノンブルの番号も間を飛ばします。ただし実際の印刷では、断裁される余白部分にノンブルが記載されていることが多いのですが、いずれにしてもこういった処理を「隠しノンブル」と言います。
また、本文と目次や前書きなどを区別するために、それぞれでノンブルの種類を変えたり、あるいは本文だけにノンブルを付けるといった手法もよく使われます。さらに、章ごとにページを区別しやすいように、ノンブルを章単位で付けることもあります。
ページ管理という観点から考えると、ノンブルは1つの通し番号で連続しているほうがいいのですが、ページに実際に付けられるノンブルは複数の体系のノンブルが混在することもあるわけです。
全体を通して連続したノンブルを付けることを「通しノンブル」と言います。章ごと、あるいは本文と前付け部分、後付け部分で分けて別ノンブルを付ける場合でも、通しノンブルでページを管理し、印刷時に断裁されてしまう部分には通しノンブルを入れておくといった処理も行われます。
InDesignの場合、ノンブルの管理は基本的にページパネルのメニューにある「ページ番号とセクションの設定」で行います。途中のページで番号をリセットし、1から付け直す、あるいはノンブルの形をアラビア数字からローマ数字に変更するなど自由な設定が行えます。
隠しノンブルとしてページ内に表示させたくない場合は、ノンブルのないマスターページを作って適用しておけばそのページだけはノンブルが付かず、しかもノンブルの番号はそのページを含めて増えていきます。また、章ごとに別ノンブルを指定することもできますが、その場合でも、ページパネルやプリント設定では通しノンブルを使って操作することも可能です。
InDesignの「環境設定」の「一般」設定に「ページ番号」の「表示」という項目があります。この項目が「セクションごと」になっていると、各ページに実際に付けられるノンブルでページを管理することになり、プリント設定でページを指定する場合もその形で指定しますが、「ページごと」となっていればページパネルには通しノンブルで表示され、プリント設定も通しノンブルで指定することになります(実際に出力されるノンブルはどちらでも変わりません)。
InDesignのセクション機能
InDesignのページパネルのメニューには、ページ番号以外に「セクションプレフィックス」や「セクションマーカー」といった設定項目があります。
「セクションプレフィックス」というのは、ノンブルの前に付けるセクションの識別記号のことで、章や本文・前付けなどを別ノンブルにするような場合にはこれを使って指定します。この設定欄を空白にすることもできますが、空白だと、途中のページでノンブルを1に指定し直すなどしてほかのセクションとノンブルが重複するような場合には警告が現れます。ノンブルが重複してしまうと、出力でページを指定する際、InDesignはどちらを出力したらいいか分からず、トラブルが起きかねないからです。そういったケースで、セクションプレフィックスが設定されていれば適切に指定することができます。もっとも、空白にしていた場合でも、前述のように環境設定で「ページごと」にしておけば問題は起きません。
セクションプレフィックスはページパネルのサムネイル表示や作業画面のノンブル欄に表示され、プリント設定でも使用します。セクションプレフィックス設定画面で「プレフィックスを含む」にチェックを入れれば、ノンブルの前に入れて実際のページに印刷させることもできます。
一方、「セクションマーカー」は、セクションごとに指定する文字列です。こちらはセクションプレフィックスと違ってページパネルの表示や出力の指定には影響しませんが、「特殊文字の挿入」という機能を使ってマスターページでセクションマーカーを入れておくと、セクションマーカーがドキュメントページ上に現れます。セクション単位で変更される柱などに使うと便利な機能でしょう。
もちろん、複数のマスターページを使ってそれぞれに文字列を入力し、ドキュメントページに適用し分けることでも同様のことはできますが、マスターページを複数作って管理するよりページパネルで管理するほうが簡単です。
このほか、ブックにまとめたドキュメントに章番号を付けて管理できる「ドキュメントの章番号」の設定も行えます。
ノンブルはページ物印刷物にとって欠かせないものですが、意外と理解されていないことも少なくありません。きちんと管理することが大切です。
(田村 2009.4.20初出)
(田村 2023.9.4更新)