自動組版の基本的な考え方
自動組版の基本
DTPにおけるもっとも基本的な作業と言えるのが組版レイアウト作業です。レイアウト作業では、テキストボックス(フレーム)や画像などをページ内の適切な位置に配置し、テキストを流し込み、スタイルや属性を適用するといった処理が行われます。
この作業はDTPの作業において大きなウエイトを占めており、そこにどれくらいの手間が掛かるかによってDTP工程全体の効率が大きく左右されます。
テキストや画像などのパーツが細かく分かれていて複雑な配置をしなければならなかったり、テキストの属性が複雑に組み合わさっているような場合、それをひとつずつオペレーターが処理していくとなると、かなりの時間が掛かります。しかも、オペレーターの作業が煩雑になればなるほどミスの可能性も高くなり、それをチェックしたり修正したりする時間も増えていくことになるわけです。
こういった場合、オペレーターが地道にひとつずつ作業するのではなく、自動で処理を行うソフトによって一気に処理することができれば、作業時間を短縮できるだけでなく、ミスの数も減らせるはずです。こういった自動的なレイアウト処理のことを自動組版と言います。
自動組版は人間の作業をソフトにやらせるものですが、人間の作業全てがソフトに置き換えられるわけではありません。たとえば、テキストや画像が全部揃っているとしても、それだけではソフトは何も処理することはできません。どの部分をどう処理するかということは人間が指定しなければソフトで勝手に判断できないのです。
自動組版の指定を大きく分けると、「組版の指定」と「データの指定」の二つになるでしょう。組版の指定とは、実際にパーツをどのように配置し、どのような書式や属性を与えるかを指示することを意味します。これをテンプレートとか雛型などと呼びますが、いわば自動組版における設計図としての役割を担うものです。
データの指定とは、データのどの部分をどこに入れていくかを指定するというものです。たとえば、通常の組版作業でも、原稿の①の部分のテキストを指示書の①の位置に入れる、といったように原稿と指示書で合番を使って指定するということが行われてきました。この合番と同じことを、ソフトに解釈できる形で指定するわけです。
テンプレートを作る作業は、一般的なデザイン作業と変わりません。ただし、自動組版ではさまざまなデータが流し込まれることになるため、どのようなデータが流し込まれても問題ないようなデザインであることが求められます。テキスト量の多いものが流し込まれると行が増えて収まりきらなくなるデザインや、異なる形の画像が流し込まれると文字が重なって見えなくなったりするようなデザインでは困るのです。
逆に言うと、原稿となるデータを事前にテンプレートと照らし合わせ、流し込んでも問題が起きないかどうかをよく確認することが大切だということになります。
一般的なデザイン作成作業では、元のテンプレートはある程度適当に作っておき、実際にレイアウトしていくうちに問題が生じればその都度対処していくということが可能ですが、自動組版の場合、人の作業が入れば入るほど自動化のメリットはなくなっていくわけで、可能な限り自動処理できるような設定が必要になります。
データの指定は、データの要素名を使うのが普通です。たとえば、不動産の物件チラシを作るという仕事で、原稿データがExcelの表の形で作られていたとします。この場合、横の各行をそれぞれ一つずつのレコード(物件と言い換えられる)、行の各セルをそれぞれ一つずつのフィールド(要素と言い換えられる)と考えると、見出しである先頭行のフィールド(要素名)をテンプレートの所定の部分に紐づけ、それを自動処理することによって全レコード(物件)を一気に処理するという考え方になります。
表の先頭の行に見出しとしてフィールド名を入れておき、そのフィールド名をテンプレート中で指定すると、自動処理を行う際にはフィールド名をキーワードとして各レコードごとにフィールドを探し出し、テンプレートのフィールド名と置き換えて流し込まれるというわけです。
自動組版の問題点
自動組版は、オペレーターが作業するより効率的かつ正確な処理ができるというのがメリットです。しかし、それにはそれを可能にするだけの条件が揃っていなければなりません。
たとえば、処理そのものは効率的であるとしても、そのためには自動処理に合わせて設定が施されたテンプレートを作らなければなりません。通常のデザインテンプレートよりも複雑で融通が利かないテンプレートが求められるため、この作業にはかなりの時間がかかります。つまり、自動組版を使うかどうかは、実際の組版作業の手間だけでなく、事前のテンプレート作成作業を含めてオペレーターの手作業より効率的かどうかを考慮しなければならないわけです。
テンプレート作成の作業が煩雑で、処理する量が比較的少ない場合は、自動組版で処理しようとするとかえって時間がかかってしまうという事態もあり得ないわけではありません。また、作業後にデザインが変わり、何度もテンプレートを作り直さなければならないようなケースだと、通常のレイアウトより余計に時間がかかってしまうということもあります。
また、原稿がきちんと整っていればいいのですが、複数の元原稿の寄せ集めで形がバラバラだったり、原稿が全部でなく一部ずつしか入稿されないといった場合は、自動組版をする前にデータの整形をしなければならなかったり、オペレーターの手作業の部分が多くなるなど、やはり自動組版のメリットは生かされないことになってきます。
人の手作業が入るということは、正確性が確保されないということにつながります。たとえば原稿自体に修正が入ってあらためて自動処理をやり直した際、手作業でやった部分をやり忘れてしまうかもしれません。
自動化できない要素がある場合も、自動組版に向かない仕事と言えます。たとえば、処理の途中に人がデザイン的に判断しなければならない部分があるものなどは、ソフトで処理できないこともあります。
自動組版は、コンピュータを使うDTPならではの強力な武器と言えますが、実際にはどんな仕事にでも使えるというわけではなく、かなり仕事を選ぶものです。特に原稿の入る流れや全体のワークフローに左右される部分が大きいため、自動組版を採用する際には事前によく検討する必要があります。
AI(人工知能)が急速に発達し、その存在が今後の社会のあり方にも大きな影響を及ぼすと予想される中、手間がかかる自動組版のテンプレート設定やイレギュラーな処理、デザイン的な判断すらも、いずれは人を煩わすことなくAIによって自動化できるようになるかもしれません。それまでは、自動化するメリットとデメリットを見極め、その案件に最適なやり方ができるような環境を整えることが自動組版を運用するうえで大切になります。
(田村 2010.4.5初出)
(田村 2024.3.18更新)