線の幅
線幅とサイズ
アナログの時代は、線を引くためには定規やロットリングを使いこなす必要がありました。直線一本であっても正確に引くとなると十分注意しなければならなかったわけですが、DTPになって直線だろうが曲線だろうが誰でもきれいな線を簡単に引けるようになりました。数値を指定すれば正確にその長さや幅になるわけですから、厳密性が要求されるものであるほどDTPのメリットが発揮されるはずです。
さて、線の長さや幅を数値で指定する場合、気をつけなければならないのは、指定する数値の基準が何かという点です。IllustratorとInDesignを例にとって考えてみましょう。
IllustratorやInDesignでオブジェクトを描く場合、ペンツールなどを使って骨格となる線(パス)を作り、線幅を指定します。Illustratorで表示を「アウトライン」にするとよく分かりますが、骨格となるパスは「線幅」が指定されなければ幅は0ミリ、つまり目に見える線にはなりません。線幅が指定されてはじめて実際に印刷される線になるわけです。
線幅を指定した場合、パスの線を基準にして指定された数値の幅が描画されます。では、この場合の線の長さはどうなるのでしょうか。
変形パネルを確認すると分かりますが、Illustratorの場合は、線の幅に関係なくパスの長さが線の長さとなっています。描画された線端の形状(オープンパスの場合)次第では、パスの長さが10cmであっても実際の線の長さは10cmより長くなることもありますが、Illustratorの変形パネルではあくまでも10cmのままです。
一方、InDesignでは、「変形」パネルのメニューで「境界線の線幅を含む」がチェックされていた場合、パスの長さが同じであっても、線幅を持った実際の線の長さによって変形パレットの数値が変わってきます。
「境界線の線幅を含む」がチェックされていない場合は、Illustratorと同じようにパスを基準にした数値になります。
つまり、Illustratorはあくまでもパスを基準に線のサイズも管理しているのに対し、InDesignでは実際の線の見た目を考慮したサイズでも管理できるようになっているわけです。
図形作成そのものは、今やIllustratorでもInDesignでも同じようにできます。しかし、数値を指定した図形作成においては基準によって作業の適性にも違いが見られます。
たとえば、Illustratorや「境界線の線幅を含む」がチェックされていない場合のInDesignだと、いったん作った線の線幅を変更するとサイズが指定より大きくなってしまうことがあります。一方、InDesignで「境界線の線幅を含む」がチェックされていた場合、線幅を変更すると、パスの位置や形状に影響が出る可能性があるわけです。線を引く場合は、こういった点にも注意しなければなりません。
なお、Illustrator CS5から搭載された線幅ツールは、パスを直接ドラッグして線幅を自在に変形・コントロールすることができる便利なツールですが、数値でコントロールする際は線幅ポイント上をダブルクリックして表示されるダイアログで入力します。
「線の位置」オプション
IllustratorおよびInDesignの「線」パネルに「線の位置」オプションがあります。このオプションは、パスと実際の線の関係をコントロールするためのものです。
以前のIllustratorやInDesignでは、パスに線幅を指定すると、パスを中心にして両側に均等に線が太りました。つまり、線の中心をパスが通る形だったわけです。「線の位置」オプションでは、従来と同じ「線を中央に揃える」以外に、「線を外側に揃える」「線を内側に揃える」という2つのオプションを選ぶことができるようになりました。
「線を外側に揃える」を選択した場合、パスの外側(オープンパスの場合、進行方向に向かって左側)に線が描画されます。「線を内側に揃える」の場合はパスの内側(オープンパスは進行方向に向かって右側)です。
このオプションが追加されたことで、パスと線幅の関係をこれまでより柔軟に調整できるようになりました。たとえばIllustratorで言えば、線幅を変更することでサイズが変わってしまうという問題は、「線を内側に揃える」オプションを使えば解決できるわけです(もちろん全てのケースで有効というわけではない)。
なお、InDesignで「境界線の線幅を含む」がチェックされていた場合、このオプションを変更するとバウンディング・ボックスの位置やサイズの数値が変更されることになるので注意が必要です。
オブジェクトの拡大・縮小と線幅
オブジェクトをパーセントの数値で指定して拡大・縮小することはよくあります。その場合、線の幅をサイズの変化に合わせて変更するかどうかは重要な問題です。
線幅を変更せずにオブジェクトのサイズだけを変更する場合、Illustratorだと「拡大・縮小」ダイアログや「変形」パネルのメニューで「線幅と効果を拡大・縮小」のチェックを入れずにオブジェクトを拡大・縮小します。チェックを入れれば線幅はサイズの拡大・縮小率に合わせて変更されるわけです。
InDesignの場合は、コントロールバーや「変形」パネルのメニューで「拡大/縮小時に線幅を調整」にチェックを入れてあればオブジェクトのサイズ変更と同時に線幅も変更され、チェックが入っていなければ線幅は変更されません。ちなみにInDesignではマウスでドラッグして拡大した場合は線幅が変わりません。
普段何の気なしに指定している線幅も、使い方によっては思わぬ結果になることがあります。効率的な作業のためにも十分把握しておく必要があるのではないでしょうか。
(田村 2007.1.9初出)
(田村 2024.7.12更新)