FMスクリーニングのメリット
網点が抱える問題
印刷物の品質を判断する場合、どういった点が重視されるでしょうか。通常の印刷物であれば、文字の品質がちゃんとしているかどうかはもっとも大切なポイントです。ただし、一般的なオフセット印刷では、特別なことでもないかぎり、文字の印刷品質が問題になることは少ないでしょう。
印刷品質という点に限れば、画像や平アミ、グラデーションといった濃淡のある部分のほうが問題になる可能性は高いと言えます。では、なぜこういった濃淡のある部分が問題になりやすいのでしょうか。
印刷物に濃淡があるということは、印刷で濃度をコントロールしなければならないということを意味します。濃度のコントロールが正確にできなければ、思ったとおりの濃淡が得られず、結果として品質的に評価は下がってしまうということになるわけです。
オフセット印刷で濃度をコントロールするために考え出されたのが「網点」という技術です。網点は、縦横等間隔に規則正しく並んだ微小な点で、従来のオフセット印刷ではこの点の大きさを変化させることで濃度を表現します。網点が大きな部分は濃度が高くなり、小さな部分は低くなるのです。もちろん、一つ一つの網点はルーペでなければ確認できないほど小さいため、人の目は網点を点としてではなく、濃淡としてしか認識しません。
この仕組みは印刷物上で簡単に濃淡を再現することができる非常に優れた方法であり、現在に至るまで長い間広く使われてきました。しかし、問題がないわけではありません。
網点方式のもっとも大きな問題は、モアレの発生でしょう。モアレは、網点と画像の絵柄が干渉することで生じます。網点は規則正しく並んでいます。画像に規則正しい(周期性のある)パターンが含まれていた場合に、パターン同士が干渉し、新たな模様(パターン)が発生してしまうのです。
カラー印刷でモアレを防ぐために通常行われているのは、網点が配列されている角度を各色の版ごとに変えるというものです。たとえば、ブラック版は45度、シアン版は15度、マゼンタ版は75度といったように角度をずらすことで、網点配列の規則正しさを崩し、絵柄パターンと干渉しないようにする(実際には干渉は必ず生じるが、それがモアレという人の目に見える形で認識されなくなる)わけです。
ただし、こういった対処方法ではモアレを完全に防止することはできません。むしろ、版ごとに網点の角度が違うことで、ロゼッタパターンというモアレが発生することもあります。ロゼッタパターンというのは、各色の網点が集まってできるパターンです。
モアレを完全に防ぐには、網点による濃度再現というやり方を根本から見直すことが必要です。そこで注目されたのが、網点を使わない濃度再現方法であるFMスクリーニングです。
FMスクリーニングの仕組み
網点印刷は規則正しく並んだ点のサイズを変化させることで濃淡を表現する方法ですが、FMスクリーニングは点(ドット)のサイズは一定に保ち、その分布する密度を変化させることで濃淡を表現するという方法です。
FMスクリーニングのFMは「Frequency Modulation」すなわち周波数変調という意味であり、濃度を周波数(つまり分布密度)の変化で表すことを意味します。ちなみに、網点方式はAMスクリーニング(Amplitude Modulation)と呼ばれます。これは、振幅(つまり網点の大きさ)の変化で濃度を表現するということを意味します。
ドットが密集している部分は濃度が高くなり、まばらな部分は濃度が低くなるというのがFMスクリーニングの原理です。もちろん、ドットは微小なサイズであり、人間の眼には見えません。
網点と違って、FMスクリーニングのドットは規則正しく並んでいません(平アミの部分でもあえて不規則な配列にしている)。そのため、網点と絵柄のパターンが干渉してできるモアレが発生しないのです(スキャニングなどで絵柄とCCD配列が干渉してできる入力モアレはこの限りではない)。
網点というのは、網点よりもさらに小さなドットが集まって形作られています。形成するドットの数を増減することで網点の大きさを変えているのです。そのため、たとえば大きさが256段階に変化するためには、1個の網点に使われるドットの数は256個必要ということになります。
一方、FMスクリーニングのドットは、1個単位で独立していて集める必要はありません。そのため、このドットは網点よりもはるかに小さなサイズになります。このことから、FMスクリーニングは網点よりもきめ細かな部分を再現しやすいというメリットもあります。
FMスクリーニングの問題点と将来性
FMスクリーニングはモアレが基本的に発生せず、しかも微細な部分の再現性にも優れています。にもかかわらず、いまだに網点方式のほうが主流であるのは、FMスクリーニングを使った印刷の難しさに原因があります。
オフセット印刷では、インキ量を調整することで印刷の色をコントロールしますが、実際に色を管理する上では、ベタ濃度とドットゲインという二つの要素が重要になります。ベタの色と中間調の色が、全体の色を左右するからです。
ドットゲインは網点(ドット)の大きさよりも濃度が高くなる現象であり、網点そのものが広がってしまう物理的ドットゲインと、紙で反射する光の振る舞いによって光学的に濃度が高くなってしまう光学的ドットゲインがあります。光学的ドットゲインはドットが小さければ小さいほど大きくなり、コントロールが難しくなる傾向があります。
網点方式でも、1%程度の網点は印刷で飛んでしまい、再現されません。これは、それだけ小さなドットは再現が難しいことを意味しています。つまり、ドットの小さいFMスクリーニングは、それだけ正確な印刷が困難なのです。
この問題を解決するには、まず、正確なドット再現が重要です。従来のフィルムを使った製版では難しく、精度の高いCTPが必須となります。
また、ベタ濃度やドットゲインの変動の影響が網点方式以上に大きくなるため、安定したベタ濃度、ドットゲインが重要です。そこで、測色計や色管理システムなどを使い、数値によってインキ濃度をデジタルで管理する仕組みも必要でしょう。
さらに、紙やインキ、印刷機の環境変化など、濃度を変動させるさまざまな要因についても、出来る限り安定した状態を作ることが求められます。
FMスクリーニングの技術は年々進化しており、FMとAMの特徴を併せ持ったシステムや、ドットゲインを抑える技術などが各社から提供されていて、以前に比べるとかなり使いやすくなってきました。FMスクリーニングを採用する印刷会社も目立って増えています。
それだけ敷居が低くなってきたということでしょうが、それでもやはりFMには網点方式とは違う難しさはあります。FMスクリーニングが万能というわけでもなく、場合によっては網点のほうがいいということもあるでしょう。
FMスクリーニングが増えていくことは間違いないとしても、今後はそのメリットとデメリットをよく理解し、使い分けることが大切になってくるのかもしれません。
(田村 2009.2.2初出)
(田村 2016.11.26更新)