プロセスレス・プレート
省力化が進むプリプレス工程
CTPが登場したのは1990年代のことです。1995年のDrupa(世界最大の国際印刷機材展)ではメーカー各社がCTPの最新鋭機を出展、一気にCTP時代が到来することになりました。ただし、日本では色校正の問題などから普及が遅れ、導入が本格化したのは21世紀に入ってからでした。
言うまでもなく、オフセット印刷には印刷の原版である刷版が欠かせません。刷版をどのように作るかということは、印刷物の品質、コスト、効率を左右する重要な要素です。
従来は、まずイメージセッタで透明なフィルムに印刷の内容を印字出力し、それをPS版に光学的に焼き付けることで刷版を作っていました。フィルムという中間材を使うことで自由度が高くなり、平台校正機を使うことも容易でしたが、中間の工程が入る分、品質やコスト、効率といった面ではデメリットでもあったわけです。
CTPは刷版を直接作る出力機です。これによってフィルムが不要になり、効率はもちろん、品質やコストの面でも大きなアドバンテージがあります。もっとも、CTPのプレート(刷版)はフィルムよりも高価なので、フィルムのような安易な気持ちでプレートの出し直しを繰り返すようだとコストはかえって高くなってしまいます。
いずれにしても、CTPの導入によって従来あった工程が丸ごと一つ削減されるわけで、プリプレスの省力化が大きく推進されることになりました。そして、省力化という点でさらなる注目を集めているのがプロセスレス・プレートなのです。
プロセスレス・プレートとは
CTPでプレートを出力する場合、イメージセッタでフィルムを出力したときと同じように、露光済みのプレートを現像しなければなりません。CTPを導入する場合は、この現像作業が重要なポイントになってきます。
CTPはプレートを露光するレーザーの波長や版材の種類によってタイプが分けられます。たとえば、可視光線のレーザーを使うタイプだと、日常の環境光でもプレートが簡単に露光されてしまうことになり、出力したプレートを現像する際は暗室を使わなければなりません。
赤外線レーザーで露光するプレートのタイプ(サーマルタイプ)は、可視光線では露光されず、またプレートの感度も低いため、照明がついている部屋でも扱うことが可能です。
このほか、黄色光の下であれば大丈夫という青紫光(バイオレットレーザー)を使うタイプなどがあり、それぞれ必要な設備も変わってきます。
イメージセッタでもそうですが、現像工程は現像液の扱いなどが面倒で臭いもひどく、環境への対応が厳しくなってきた最近はとかく嫌われがちなものです。しかも、他の工程をいくらデジタル化して厳密に数値管理したとしても、この工程がアナログ作業である以上、安定性という点で限界があります。
そこで考え出されたのが現像(プロセス)作業の不要なプレート、すなわちプロセスレス・プレートです。プロセスレス・プレートはかなり以前から研究が行われてきました。一般のCTPでの登場は最近になってからですが、いわゆるDI印刷機(有版式オンデマンド機)において早くから開発が図られていたのです。
なお、プロセスレス・プレートといっても、何もせずにそのまま印刷機に装着できるとは限りません。水洗いや拭き取りなどの処理が必要なものも少なくありませんが、従来の現像と比べるとはるかに作業が楽になっています。
各種のプロセスレス・プレート
プロセスレス・プレートにはいくつかの方式があります。中でも早くから研究されてきたのが「アブレーション・タイプ」と呼ばれるもの。平版印刷の刷版では、インクが付く画線部が親油性、湿し水によってインクをはじく非画線部は親水性にならなければなりません。アブレーション・タイプは、親油性の層の上に親水性の層が塗られており、レーザー光によって親水性の層を焼き飛ばすことで画線部と非画線部を形成します。その際、焼き飛ばした後のかす(デブリ)が出てしまうので、これを手で拭き取ったり、バキューム装置で吸い込むなどの処理が必要になります。
また、特殊なポリマー(樹脂)を使う「相変換タイプ」という方式も各社で研究されています。このタイプでは、プレートにレーザーを照射すると表面のポリマーが変化します。たとえば、元々親水性のポリマーだったとすればレーザーを当てることで親油性に変換するのです。この方式だとデブリが出ないので完全な処理なし(プロセスレス)が実現できます。
そのほか、レーザー光でプレートの感光層を硬化させてそのまま印刷機に掛け、印刷機上の湿し水によって露光していない部分をふやけさせて取り去る機上現像方式などがあります。
感材メーカー各社も将来の印刷用プレートは間違いなくこの方向に進むと考えており、製品の開発にしのぎを削っています。コダックポリクロームグラフィックス社が機上現像方式のプレートを、アグフア社は完全なプロセスレスではないもののガム処理だけで現像の要らない製品を発売し、さらに日本フォトケミカルと三井化学が校正用プロセスレス・プレートを出すなど、徐々に市場にも登場してきつつあります。
環境問題、労働力の問題などを考えると、プレートの現像が必要かどうかという点は、今後、私たちが思っている以上に印刷工程において重要なポイントになってくるとも予想されます。プロセスレス・プレートは、プリプレスの将来の姿を考える上でも目が離せない技術と言えるでしょう。
(田村 2006.7.10初出)
(田村 2016.11.15更新)